軍靴  72.8×60.6 1978  

  シベリアの冬は編上靴では過ごせない。もうこの靴ともおさらばだ。国境守備の原隊から教育隊に入隊するときに履いてきた靴だ。それでもこのぼろ靴は、教育隊の厳しい演習にも耐え、戦場を駈けめぐった。足の甲をさすりながらぼろぼろになった編上靴を見ていると、満州の山野をさまよい歩いたときのことが、走馬灯のように思い出されてくる。暗い土間にぬぎ捨てられた編上靴が、なんともいとおしくなってくる。ワーリンキを履けば、明日からはもう日本の兵隊の姿ではなくなるのだ。